生まれ育った神奈川を離れ国頭村に移住した東さん。移住当時の様子や心境、移住後の生活環境についてお話を伺いました。
先輩移住者プロフィール
名前:東 健(あずま けん)さん
職業:不動産業経営
出身地:神奈川県川崎市
移住した時期:2016年
移住場所:国頭村
ーーー東さんは神奈川県から国頭村に移住したそうですね。はじめに、現在お住まいの国頭村について教えていただけますか?
国頭村は那覇市から約100km離れたところにあります。那覇から高速道路を使って車で1時間40分ほど、名護市の許田ICからは1時間ほどの距離ですね。「本島最北の村」と言われるとおり、沖縄の最北端に位置しています。周辺は山や川、海といった自然が豊かなので、とても身近に感じながら生活しています。
村の人口は4500人ほどで、移住してきた方々ももちろんいますが、村民のほとんどが元から住んでいる地元の方々ですね。
ーーー国頭村に移住される前は、どのような生活をされていたのでしょうか?
国頭村に移住する前は、長いあいだ神奈川県川崎市で生活していました。不動産会社に勤めていて、不動産の賃貸や売買取引に携わっていました。
ーーーずっと神奈川で生活されていたのですね。何がきっかけで沖縄に移住しようと思ったのですか? また、沖縄の中でも国頭村に決めた理由があれば教えてください。
沖縄に移住するきっかけになったのは、地域おこし協力隊の募集ですね。父親が沖縄出身だったこともあり、以前から沖縄本島への移住を考えていました。地域おこし協力隊の存在は以前から知っていたので、ネットで沖縄本島での募集を探していたんです。
そのときに見つけたのが国頭村での募集でした。業務内容が移住定住促進に関わる事業で、不動産業に携わっている自分に合っていると感じたので応募しました。これまでの経験から移住定住サポートという業務内容をイメージできたのも、国頭村を選んだ決め手になりました。
ーーーお父様の出身地と、これまでに経験してきた職種が見事にマッチした求人に巡り会えたのはすごいですね。地域おこし協力隊では、実際にどのような活動をされていたのでしょうか?
2016年に移住して2019年までの3年間、地域おこし協力隊として活動していましたが、業務内容としては、移住や定住の促進に関するものでした。たとえば、役場の職員と一緒に移住フェアなどのイベントに出展して、移住に興味ある人の相談を聞いたりアドバイスしたりといった活動です。
ーーー不動産業界で働いていたとはいえ、神奈川にいながら沖縄での家探しは大変だったと思います。国頭村に移住する際の家探しや引っ越しはどのようにされましたか? また、国頭村の現在の住宅状況も教えてください。
私の場合は地域おこし協力隊としての移住だったので、住む場所に関しては役場に用意していただけました。その後は知り合いのネットワークを活用して、自分で探しました。現在は紹介してもらった一軒家に住んでいます。
引っ越し時は、家電や家具といった大きい荷物は持ってきませんでした。身の回りのもの以外の荷物はほぼ持たずに飛行機で来て、必要なものは沖縄に来てから調達しました。事前に調べたところ、神奈川から荷物を運ぶほうが金銭的に高くついたので、現地調達を選びました。
国頭村の賃貸はアパートがメインで、家賃相場は平均5万円ほどです。ただ、空き家があまりなくて、移住当時も現在も変わらず、ほぼ満室の状況ですね。
ーーー東さんが移住した当時、国頭村では移住支援金や移住相談窓口など、移住希望者の受け入れ体制は整っていましたか?
私が移住してきた時は、移住者に対しての環境はあまり整っていなかったですね。移住支援などもほとんどありませんでしたが、いまは少しずつ整備されています。たとえば、移住体験住宅といった移住希望者向けの支援制度は、私が地域おこし協力隊として活動していた時に立ち上げました。
ーーー移住体験住宅制度とは、具体的にどのような制度ですか? 最新の移住支援環境についても教えてください。
移住体験住宅制度というのは、数日〜3か月ほど国頭村に滞在してもらい、実際に国頭村での暮らしを体験してもらえる制度のことです。移住希望者のなかには国頭村のことを知らない人も多かったので、まずは村のことを知ってもらうための環境作りを整備しました。実際に国頭村内に寝泊まりできる宿を設けて、そこで過ごしていただきながら、国頭村での暮らしを移住前に体験することができます。宿は一棟貸しでひとり一泊2000〜3000円ほどです。村内に2か所あり、現在も利用できます。
また、現在では移住支援金の制度もあります。東京23区の在住者、もしくは23区への通勤者に限られますが、条件を満たせば単身で60万円、世帯だと100万円の支援金が受け取れます。移住体験住宅や移住支援金の詳細については、国頭村のホームページで確認いただければと思います。
さらに、相談窓口として「国頭村地域交流スペース」もあるので、気になることは気軽に相談できます。移住体験住宅の利用期間中に何度か相談しにくる人もいますよ。
ーーー自身の体験を基にして、移住してもらいやすい環境を整備していったのですね。地域おこし協力隊としての活動の後は、どのようなお仕事をされているのでしょうか?
現在は不動産会社を経営しています。地域おこし協力隊の任期が終わった当時、国頭村には不動産会社がひとつもなかったので、ニーズに応えるべく、すぐに会社を立ち上げました。
地域おこし協力隊の時の経験や、役場と連携できるパイプがあったので、不動産会社を立ち上げてもやっていけそうだなと思ったんです。
会社の経営の他には、年に数回ですが移住相談ツアーのアテンドもおこなっています。
ーーー国頭村での仕事の選択肢は少ないのでしょうか?
不動産会社こそありませんでしたが、村にはさまざまな仕事があります。サービス業や介護施設、建設業など、どの業種も人手不足なので、村内で働くことは可能だと思いますよ。
ーーー経営者として多忙かと思います。休日はどのように過ごされていますか?
休日は、よく釣りをしています。ふだんは国頭村地域交流スペースにいるので不定休なのですが、休みがあえば地域の友人たちとバーベキューなどを楽しみながら交流を深めていますよ。
ーーー地域の方々との交流を大事にされているのですね。
そうですね。積極的に交流していくことで、地域の皆さんの考え方をより深く理解していきたいです。
ーーー国頭村は都市部からは少し離れた場所に位置していますが、住んでいて不便に感じたことはありますか?
いえ、生活していて不便に感じたことはありません。国頭村には大きな総合病院はありませんが、診療所があります。小さなスーパーやコンビニ、地方銀行もあります。いまは日用品などもECサイトで購入できますし、ネット環境は光回線も使えますよ。どうしても必要なものがあれば、車で40分ほど離れた名護市まで買いにいくこともあります。
ーーーふだんの生活における環境が整っているのですね。移住を検討している方の中にはご家族での移住を検討されている方もいると思います。東さんから見て、国頭村は子どもやお年寄りでも住みやすい環境でしょうか?
そうですね、子どもたちものびのび暮らせる環境だと思います。村内には小学校が5校、中学校が1校あります。村内に高校はありませんが、隣の大宜味村には辺土名高校があります。
また、特別養護老人ホームや福祉系の事業所がいくつかあるので、老後の生活環境も整ってはいると思います。
ーーー国頭村ならではのローカルルールのようなものがもしあれば、教えてください。
ローカルルールといいますか、各集落で町内会費のような字(あざ)費や家庭募金の徴収があります。また、集落のイベントや草刈りといった地域の作業があり、私はほぼ参加しています。加えて、地域の方々と交流することができる良いきっかけにもなるので、自治会には加入したほうがいいと思います。
ーーーところで、台風対策はどのようなことをされているのか教えてください。
台風に関しては、そこまで神経質になるほどの対策はしていません。ここ5〜6年は大きな影響もありませんでしたが、いつも念のため事前に食料の買い出しはしています。とはいえ台風時は停電するので、非常用の電灯など明かりの準備は必要だと思います。
ーーー国頭村で長く生活している東さんが思う、国頭村の魅力を教えてもらえますか?
そうですね、沖縄という土地柄、海や山といった自然が魅力的なのは当然として、村の人と交流できる機会が多いところでしょうか。村内には20の集落があって、各集落でそれぞれの豊年祭や夏祭りがあるんです。そのような地域密着のイベントがたくさんあり、村の方々と交流する良いきっかけになっています。
観光面でいうと、本島内で一番高くて迫力のある比地大滝や、本島最北端の辺戸岬が観光地として有名です。
また、大石林山も見応えがあるのでおすすめですよ。広い敷地内に珍しい岩や巨石群、大自然を感じられるトレッキングコース、博物館など、雨の日でも楽しめる施設がありますし、やんばるの自然を思う存分体感できます。
それから国頭村には幻の豚といわれている希少な「イノブタ」を使った特産品があるので、国頭村にいらした際にはぜひ食べてみてください。
ーーー東さんは、地域の方々と積極的に交流しながら、人々とのお付き合いをとても大切にしていると感じます。地域のイベントに参加する際やふだんのコミュニケーションのとり方などについて、もう少しお話を聞かせていただけますか?
自ら出向いて地域の方々と交流することが、移住生活の質を上げるポイントだと思っています。集落ごとのイベントにはなるべく参加し、ふだんから地域の飲食店で食事することで顔見知りになれるように行動していました。
国頭村はご近所との距離感も近いと思います。地域の習慣として子どものお祝い行事にはみんなで参加しますし、知り合いが歩いていたら車に乗せてあげるくらいの距離感です。
地域のルールや人間性を知ろうとするのも大事ですが、それよりも、外から来た自分をいかに知ってもらうかを意識すると地域に溶け込みやすいと思います。あとは、移住に際して行政や地域の人たちに頼りすぎないよう気をつけることでしょうか。
ーーー移住生活の質を上げるためには、自ら行動することが大切なのですね。神奈川から沖縄に移住して良かったこと、また逆に困ったことがあれば教えてください。
移住して良かったと思うことは、やはり新しい仲間が増えたことですね。会社を立ち上げられたのも仲間のおかげですし、その結果さらに多くの人たちとのネットワークも構築できました。
唯一、神奈川と沖縄とで違うなと感じたのは交通の利便性についてですね。神奈川に比べて公共交通の本数が圧倒的に少ないので、沖縄での生活、特に国頭村では車が必須だと思います。ですが、不便なところも含めて国頭村の暮らしは自分に合っていると感じます。
ーーー今後も国頭村で暮らしていくなかで、夢や目標はありますか?
国頭村の未来のために、力となる存在になりたいですね。国頭村は現在も住宅不足なので、不動産業の経営者として村に貢献していきたいと思います。何かあったら頼ってもらえる、村にとって必要な存在になるのが目標です。
ーーー今回は貴重なお話をありがとうございました。では最後に、移住希望者に向けたメッセージやアドバイスがあればお願いします。
移住とは、移住先に住所を置いて生活することです。沖縄に限ったことではありませんが、旅行の延長程度の考えですと、実際に生活していくのは難しいと思います。また、沖縄の人は優しく対応してくれるはずですが、その優しさに甘え過ぎないことです。そして、都会の概念を押し通そうとしないことが、移住生活においての大切なポイントになると思います。沖縄という土地の人柄や文化などを理解して、自ら進んで地域に溶け込むことを大切にしてください。