千葉県出身の花澤さんに、大宜味村と本部町で子育てをしながら2地域居住する良さや大変さ、過疎地域ならではの生活の様子を伺いました。
先輩2地域居住者プロフィール
名前:花澤美架(はなざわみか)さん
職業:短大生
出身地:千葉
2地域居住開始時期:2016年
2地域居住場所:大宜味村と本部町
ーーー 今日はよろしくお願いします。花澤さんが大宜味村と本部町で2地域居住を始めた理由を教えていただけますか?
2地域居住を始めたのは、娘が小学校に入学したからです。保育園までは大宜味村に住んでいましたが、小学校に通うために本部町に家を借り、2地域での生活がスタートしました。
実は、小学校を選ぶにあたって沖縄県内の学校やオーストラリア、フィリピンといった海外の学校も視察してみたのですが、最終的には本部町の学校に進むことに決めました。少人数制の自然豊かな環境の学校で、娘のペースで通うことができました。
ーーー 娘さんの入学にあたり、本部町に家を借りても大宜味村から離れず、2地域での生活を選んだのには何か理由があったのでしょうか?
実は娘が小学校に入学する以前から、大宜味村では中高生の修学旅行を受け入れるようになりました。そこで教育農家として民泊を始めたんです。生徒と一緒に伝統体験や農業体験、やんばるの自然を案内するといった内容でした。
1〜2泊と短い滞在の中で、娘もガイド役をしたり、沖縄ややんばるのこと、自分自身が経験したことを生徒たちに伝えたりしながら生徒たちと過ごしていました。そのような、心に残るたくさんの素敵な思い出が大宜味村でできたことが、理由としては大きいと思います。
ーーー 大宜味村と本部町の2地域で生活するうえで、どのように暮らし分けていましたか?
大宜味村と本部町は車で片道20分くらいの距離なので、学校がある日は本部町、休日や民泊がある日は大宜味村、というふうに分けて生活していました。
ーーー 花澤さんは千葉県出身とのことですが、そもそも沖縄に移住しようと思ったきっかけがありましたら教えてください。
もともと海が好きで、過去にもアクアインストラクターやエコツアーガイド、ドルフィンセラピーの仕事をしながら沖縄で暮らしたことはありました。本格的に生活拠点を移したきっかけは、出産と3.11東日本大震災を経験したことです。当時、実家のある千葉で子育てをしていたんですが、まだ生後まもない娘と一緒に沖縄に戻ることに決めたんです。
ーーー 改めて沖縄での生活をスタートするにあたり、どこに住むのか悩まれたと思います。生活拠点を大宜味村に選んだ決め手は何でしょうか?
大宜味村を選んだのは、やんばるの自然を存分に感じながら子育てできる地域だと思ったからです。
沖縄に戻ってきて始めの2年間は、友人宅でお世話になりながら子育てをしていました。その時に、大宜味村で同じように子育てをしていた友人宅を訪れるようになって、自然に囲まれたやんばるでの豊かな子育てに触れて心が動かされたんです。
そうして、幼少期の娘を自然あふれるやんばるの地域で育てたいと思い、大宜味村を生活の拠点に選びました。
ーーー やんばるの自然の中での子育てに魅了されたのですね。大宜味村ではどんなふうに子育てをしていましたか?
大宜味村は、農業を中心とした暮らしをしている村です。そして水が清らかでとても美味しいんですよ。自宅でもシークヮーサーや糖度が高くてスイーツのような甘さのある銀バナナ、ウコンなど季節にあった野菜を栽培していました。
娘はやんばるの自然保育園に通っていたので、私も時々、保育補助としてお手伝いさせてもらっていました。やんばるの自然そのものが良きフィールドなので、裸足になって大地とふれあったり海であおさや貝採りをしたりしました。川でウナギ採りやトレッキング、山では野草や木の実を採り、子どもたちが集めてきた薪で火を起こして調理することもありました。たくさんの自然に触れる経験をしたことで、人間の基本的な「生きる力」を身につける子育てができたと思います。
ーーー やんばるの自然と一体となって楽しんでる姿が目に浮かびます。沖縄の過疎地域で暮らすメリットとしてはどんなことがあると思いますか?
まず空気や水、食べ物が美味しいです。そして住んでる方々も温かいなと思います。都会と違って渋滞や人混みもないので、リラックスして暮らせるところもメリットですね。
また、大宜味では子どもを宝のように思ってくれていて、地域全体で子育てしてくれるような、住人の心の豊かさも感じました。
学校以外での学びの場所も多いですね。例えば、地域や動植物の名前を覚えることも学びですし、自然に触れて遊ぶことで感性も向上し、生活文化も学べます。まさに、生活のすべてが学びになるホームスクールでした。大人の私でも深い学びとなるようなことがありましたよ。
ーーー 2地域居住をしていてメリットや楽しいこともある反面、大変なこともあるかと思います。苦労を感じたことがあれば教えてください。
特に苦労を感じたことはありません。2地域となると、2つの家に住むので生活道具も2か所分を揃えなければなりませんが、幸いにも県外に引っ越しする友人からいただけたので助かりました。
確かに、掃除や庭の手入れなど2軒分管理しなければならないので最初は大変と感じますが、すぐに慣れますよ。
ーーー 休日や民泊時は大宜味村で生活されていたとのことですが、1日のサイクルを教えてもらえますか?
大宜味村では森を中心とした生活スタイルです。朝は鳥のさえずりで起きて、ゆっくりと森を眺めながらお茶を楽しんでいました。ティータイムのあとは家庭菜園の手入れをして、次に掃除を終わらせる、というような生活でした。
民泊のある日は、生徒の受け入れをしてから、やんばるの自然を満喫しに行っていました。戻ってきてからは庭で薪を焚いて、数億の星が輝いている星空を観察しながらみんなで夢を語り合うんです。この土地にいることに感謝しながら1日を過ごしていました。
ーーー 一方の本部町のほうでは、どんな1日のサイクルで過ごしていましたか?
大宜味村とはまた違って、本部町では海に触れる日々を過ごしていました。娘の通学時に、一緒に鳥や植物を観察しながら散歩して、帰ってきてから家事をしていました。
本部町は名護市まで車で10分以内なので、買い物ついでに海でシュノーケリングを楽しんだり、放課後に娘を迎えに行って、美ら海水族館や沖縄海洋公園に遊びに行ったこともあります。本部町の海はザトウクジラが子育てに訪れる海なので、10年前からクジラスイムを始めて触れ合いを楽しんでいますよ。大宜味村では森が中心、本部町では海が中心の生活サイクル、といった感じですね。
ーーー 2地域それぞれで沖縄の自然を中心とした生活をしていたのですね。実際に2地域居住を続けてきて、考え方や生活習慣など自分自身が変わったなと感じることはありますか?
子どもの成長に合わせて、2地域での生活すべてがプラスになったなと感じます。人によっては仕事や子育て、生活様式の兼ね合いで3、4地域を拠点とする選択もあると思います。ただ、その分だけ得られることもあれば、生活費や労力といった負担も同じだけかかります。何を優先するか、その時期にあった生活様式で自分や家族が納得し、最善な方法を選んで行動することが大切だと思います。
結果的に、私の場合は2地域での暮らしに落ち着きました。
ーーー 2拠点居住をして改めて感じたありがたみなどはありましたか?
心の気分転換にはものすごく良かったです。例えば、自分だけの居場所を作れたり2つの地域の方々と繋がれたりもします。それぞれの地域で、環境や人々の生活の営みなどを学ぶことができました。
ーーー 最後に2地域居住を検討している人へのメッセージをお願いします。
2地域居住は良いところもありますが、管理面での負担はもちろん増えます。それを踏まえて、自分や家族にとって、最善の暮らしのために2つの拠点が必要な場合は2地域居住も良いと思います。
私は現在、短大に進学して保育を学んでいます。勉学に集中するため、本部町に生活の拠点を絞りました。今までの経験と新たに得た資格や学びを活かして、将来は海洋を中心とした自然子ども園を作りたいなと構想中です。
最近では親の介護のために千葉県の実家に滞在することも多く、娘と一緒に千葉と沖縄を行き来しています。沖縄県内と県外の新たな2地域居住ですね。おかげで、改めてどちらの地域も素晴らしいなと感じられたので、私たち親子にとって良いチャンスになるだろうと思っています。